中村文則になぜ惹かれたのか

 一言で言うと、あまりにわかりやすかったのです。命や死、生に対するアプローチの仕方は古典的なもので、テーマとしても目新しいものはどこにもありません。文章能力も低いと言ってもいいレベルです。
 しかし、わかりやすい。あんなにわかりやすい表現で、まっすぐと使い古されたテーマに挑んだということが、強く私を惹き付けました。
 誰にでも評価される作品ではないと思います。先にあげたテーマを扱った作品を読んでこられた方には、稚拙と感じると思います。ドストエフスキーなどの古典を読んでいる人には、薄いと感じるかもしれません。私自身、どちらも感じてはいるのです。
 ただ、わかりやすい。入門にはならないでしょう。扱っているテーマに対してストレート過ぎるので。う〜ん、昔はこういうテーマ好きだったけど、最近重く感じるんだよね、でも好きは好きなんだよという人に特にオススメなんですよ。
 オススメな人を順序で言うと、
 1―かつて、重い話が好きだった人
 2―本を読み始めたのが一年以内の人
 3―人生に対して悲観的な人
かなりマニアックな人向けになってしまいましたww逆にオススメでない人は、文学について自分がこうだと思っていることがある人、ライトな話や大衆小説が好きな人、人が言うことになぜか反発してしまう人。理由としては、多少哲学的な部分をストレートに扱いすぎているので、話自体に重点をおく人には向かないということ、時折深く自分をえぐられることがあるので、反発しやすい人にはいらいらする恐れがあるということ、でしょうか。
 なぜ、わかりやすいのか。自分が頭の中で考えていることを辿るように、話が進むので、わかりやすいのだと思います。かつて、自分が順を追って考えたこと、それを小説の中で辿る。わからない人には全然わからないかもしれませんが、わかる人にはものすごくわかるというだけなのかもしれませんが、文章自体は読みやすく、小説の中で一緒に思考していくので、言いたいことをとにかく飲み込むことはできると思います。感覚でそうだというだけなので、入門にはならないんですが。
 この日記を読んでいて、興味が出た人は、土の中の子供を読んでみてください。おもしろいです。最後の命は、私にはいまいちでしたが。